自動車産業・製造業のグリーン化

自動車産業は、製品のサステナビリティと製造工程の脱炭素化の両方を先駆けて推進しています。デジタルツイン、自律型ロボット、5G を利用して、エネルギーを大量に消費するプロセスを排除することにより、効率的かつ持続可能な生産ラインを実現しています。この革新から、他の業界は何を学べるのでしょうか?

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自動車産業・製造業のグリーン化

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 サステナビリティ

主なポイント

  • 電気自動車 (EV) への移行に伴い、自動車産業の製造工程もより持続可能な方法にシフト
  • デジタルツインにより実環境でのテストが不要になった結果、エネルギー使用量を削減
  • 自律型ロボットの利用により、人間の作業員に労働災害が起こるリスクが低下し、ダウンタイムを削減
  • 5G により、オーケストレーション技術の高速化と低遅延を実現

自動車産業には、近代的な組立ラインのパイオニアとして、製造工程を革新してきた長い歴史があります。現在、業界はサステナビリティとバリューチェーンの脱炭素化に焦点を絞って、人類最大の課題の一つに取り組んでいます。製造工程と自動車製品のいずれもグリーンモデルへと移行しつつあり、2035 年には、主要市場における新車販売台数のほぼ 100% を電気自動車が占めると予測されています。1

製造業全体が、この成功例に倣って取り組みを進めています。デジタルツインの採用、自律型ロボットの利用、5G の導入により、サステナビリティへと舵を切るメーカーが増えています。脱炭素化がきわめて困難とされる鉄鋼やコンクリートなどの分野でも同様です。

自動車産業はゼロエミッション競争のトップを走っており、EU 内における製造時の排出量はこの 15 年間で 45% 削減しています。2

環境にやさしい自動車工場の技術

デジタルツイン

現実のプロセスを仮想化

ロボティクス

自動化による高精度と効率化の実現

5G

高速・低遅延によるダウンタイム削減

製造現場の仮想化

イノベーション優先のアプローチと多層化技術を組み合わせる手法は、自動車産業で成功を収めています。この移行に重要な役割を果たすのがデジタルツイン、自律型ロボット、5G です。

デジタルツインにより、メーカーは製造現場を仮想化し、物理的な実環境でエネルギーを消費することなく、プロセスを稼働できます。このような仮想環境でプロセスや製品をテストした後、最も効率的な手法だけを現実の製造現場に導入します。

機械の効率を向上させて段階的に脱炭素化を図るプロセスとは異なり、デジタルツインは最初からエネルギーを使用する必要がないため、実環境におけるテストや導入に伴う継続的な環境負荷を低減できます。また、デジタルツインのおかげで技術者や拠点責任者が複数の拠点に出張する必要性がなくなるため、移動の際に発生する二酸化炭素の削減にもつながります。

自動車メーカーは、自律型ロボットにもエネルギー効率向上の大きな可能性を見出しています。エネルギー監視用センサーをロボットや動力源に取り付けることにより、プロセスの中でエネルギー消費量が最も多い箇所を特定できます。3 そこを起点に、可変速駆動装置 (VSD) を設置してロボットの速度を生産スピードに合わせれば、作業に必要なエネルギーだけを使用できます。4

5G は設計面での持続可能性が高いため、これらのたデジタル製造エコシステムが 5G に対応すれば、従来のネットワークによるエネルギー消費量を削減するとともに、大規模機械間通信 (mMTC) により製造現場の効率性の向上が可能です。5G は 4G と比較してエネルギー使用量が 58% 少ないため、メーカーが Scope 2 と Scope 3 の排出量を管理しやすくなります。

5G により労働災害発生のリスクを低減

近い将来、製造現場では自律する機械と人間が協働する姿が見られるようになるでしょう。機械は交換できますが、作業員の労働災害はゼロでなければなりません。それを実現するのが 5G です。

Hyundai Motor Groupシンガポールグローバルイノベーションセンター (HMGICS) は 5G を利用して「メタファクトリー」を構築しています。これは、責任者が工場へ出向かなくてもプロセスを遠隔で管理できるテスト環境です。この仕組みにより、製造現場への不要な人員を減らすことで、構内での追加的な作業によるリスクを低減できます。

また、HMGICS は 5G を活用したクラウドベースのモバイルロボット一元管理ソリューションを使用しています。人間が作業をしている場所から十分に離れた場所で、ロボットが最も危険な作業を担うという未来が、すぐそこまで来ています。

労働傷害発生率が 1.2 件減少

ロボットの導入により作業員の労働傷害発生率が低下

より広範な産業分野でメリットがあることは明らかです。ある研究によって、産業ロボットの存在が労働傷害の発生率を低下させることがわかっています。具体的には、ロボットの稼働台数を作業員 1,000 人当たり 1.34 台に増やしたところ、フルタイム作業員 100 人当たりの傷害発生率が 1.2 件減少しました。5

工場の先へ:スマート農場と再生バッテリー

HMGICS は単なる工場ではありません。この多目的施設の一部であるスマート農場では、農作物の収穫量を増やしてシンガポールの農産物自給率を高め、食料の安全保障を強化する垂直栽培技術を紹介しています。

このスマートファームには革新的な製造施設と同様の技術が導入され、ロボティクス、IIoT、5G の多目的利用を実証しています。

ロボティクスや自動化技術は、害虫や病気のない制御環境下で農産物を栽培するために利用されています。併設の教育センターでは、テクノロジーを利用した食品生産の持続可能なメリットについて訪問者に伝えています。

また、先駆的なメーカーである BYD は、従来の自動車工場の枠を超え、自動車部品が当初の購入用途の寿命を終えた後も、異なる用途で再利用できる未来を構想しています。同社の次世代型ブレードバッテリーは、電気自動車としての寿命が終わると、蓄電システムに再利用できます。6 循環型の設計を組み込むことにより、次の用途に向けた新規バッテリーの追加生産が不要になるため、その結果、新しいバッテリーを製造するための二酸化炭素の排出コストを完全に削減できます。

年間6.5%の増加率

シンガポールにおけるピーク電力需要の増加率

シンガポールでは、Vehicle-to-Grid (V2G) の実証実験を通して、EV を将来の電力システムの基幹とすべく推進しています。これらの技術は、年間増加率 6.5% と推定されるピーク電力需要の管理に役立ちます。7

テクノロジードリブンによる持続可能なバリューチェーン

自動車産業や製造業界では、人間中心の設計が成長を促し、製品のライフサイクルが長く、循環型社会が現実のものとなる世界を構築しています。 自動車産業以外のメーカーも、このイノベーションから学ぶことで、環境配慮が困難な製品であっても、持続可能な未来を築くことができます。

テクノロジーを活用したサステナビリティ分野における経験豊富なリーダーと提携すれば、環境により優しく、より公平な社会の実現に近づくことができるでしょう。

参考:

1. McKinsey「Decarbonizing the world’s industries: A net-zero guide for nine key sectors(世界の産業の脱炭素化:9 つの主要産業から見るネットゼロへの指針)」| 2024 年

2. McKinsey「Sectors are unevenly exposed in the net-zero transition(業界により不均一なネットゼロへの移行)」| 2022 年

3. ScienceDirect「Optimization of energy consumption in industrial robots(産業ロボットにおけるエネルギー消費の最適化)」| 2023 年

4.「Three Technologies for Energy Efficient Robots(省エネロボットを実現する 3 つの技術)」| 2017 年

5. EHS Today「Industrial Robots Can Reduce Injuries(産業ロボットにより労働傷害が減少)」| 2024 年

6. MSN「China's EV manufacturer prioritizes sustainability amid climate challenges(中国の EV メーカーが環境対策でサステナビリティを重視)」| 2024 年

7. Business Times「Punggol to host Singapore’s largest vehicle-to-grid testbed; work kicks off in November(プンゴルがシンガポール最大の V2G 実証実験都市に:2023 年 11 月運用開始)」| 2023 年

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